父のスイカ

昨年、主婦の特権を濫用し、スーパーで他のものを倹約しては、せっせせっせとスイカを買って帰っていたワタクシ。

ところが家族に約1名、特にスイカが好きではない人がおりまして、「スイカハラスメントだ」と苦情が出てしまい、今年はまだ一度しかスイカを食べていません。

 

スイカロスを通り越し、スイカという名前さえ忘れ果てそうになっていた昨日、父からスイカをもらいました。

「落とさんことよ、落とさんことよ」と、自分が落としそうになりながら母が車から取り出したスイカは、真っ黒なボーリング玉のようで、シマシマの筋がありません。

「どしたん?これスイカかね?」

と尋ねれば、

「うん、黒スイカよ。お父さんが毎日毎日イノシシと闘ってここまで大きゅうしたスイカじゃけえね。」

と自慢げな母。

ピカピカに磨いた泥団子みたいに黒光りしているスイカ!

「なんか、すごい高級に見えるね。」

と言えば、褒められると照れる父は、こんなことにも照れて、

「スイカはイノシシに取られるけぇもう今年は植えるな、言うてお母さんが言うけぇ、目を盗んで安売りになっちょったしなびた苗を一本だけ買うて植えたらこれがなったんよ。」

と言います。

「なった、言うて。アンタらに食べさせよう思うて、お父さんが、毎日毎日、箱を被せたり、草を被せたりしてイノシシから守ったスイカじゃけえね、食べてちょうだいよ。お父さんの愛情の塊じゃけえね。」

と、母。

スイカは2個なって、自分たちはウラナリのスイカを食べたのだそうです。

 

この世界の片隅に。

イノシシと闘って、スイカを食べさせようと思ってくれる人がいる。

ありがたいことです。

                      (写真yama-p)(きなこ)