象鼻ヶ崎

象鼻ヶ崎

 

久しぶりに、海岸を歩きました。

山口県光市。

象鼻ヶ崎の海岸。

 

光市は、元気さんの生まれたところで、私が4才から17歳までを過ごした町です。

象鼻ヶ崎の付け根にあったわたしの家は、海のまん前。

というか、裏庭の石垣の向こうは海で、潮が満ちているときは、裏庭から飛び込んで泳いだり、釣り糸を垂れたりしていました。

古民家といえば聞こえはいいのですが、雨漏りがしたり、お風呂も別棟にあったりと、古くて小さくて、暮らすのには不便なことがたくさんあった借家でしたが、たのしい思い出もたくさんできた家でした。

 

車を停めて二人で海岸に下りると、思い出があふれて、自然と饒舌になるわたし。

「小学生のときね、難破船が流れてきたのよ。その船で遊ぶのが楽しくてね。ほら、あの岩のあたり。」

難破船があったところに、こんもりある岩のところまで行ってみれば、なんと、岩ではなく、錆だらけのエンジン!

長い心棒のようなものも伸びています。

エンジンの下のあたりには、船体だったものらしき板切れもいくつか。

紛れもなく、あの難破船の名残でした。

 

驚きました。

難破船のことは、私のたのしい思い出のひとつでしたが、長い時間が過ぎて、あの頃読んだ「宝島」の記憶と混ざって、本当のことではないような気もしていました。

 

残っているとは、思ってはいませんでした。

それが、目の前にある。

こんなに時間がすぎて、赤錆だらけで、貝殻をたくさんくっつけて、岩のようになってしまっているけれど、同じ場所にある。

 

なんだか、自分が映画の主人公になって、感動のワンシーンの中にいるような気持ちになりました。

光る海を見れば、湾の向こうでは、秋祭りが行われているのでしょう、その掛け声や太鼓や笛の音が、海の上を通って、わたしの耳まで届いてきました。

 

 

でも、そんなわたしの感傷にはおかまし。

元気さんは、魚と釣り人だけが気になるらしく、「本格的な釣りがしたいなあ。ああ、釣りたい!今度は、さびきの下にえさを付けるあの人みたいなやり方でやってみよう」と、元気さんの目は、鮮やかな手さばきで竿を投げる人だけを見ていました。

                         (絵、安本洋子さん)(きなこ)

 

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