アメリカ

子供が小さい頃、工作教室に通っていました。

2歳とか3歳の小さな子供を対象とした教室だったので、子供が工作するというか、お母さんがそばにいて、手伝いながら一緒に工作をする、という感じの教室でした。

 

その中に、少しやんちゃな男の子がいました。

人の作ったものに触ったり、先生が言われたことをしなかったり。

周りから見れば、それほど問題な子だとは思えない、ただのやんちゃな男の子で、たいして悪いことはしていなかったと思うのですが、子供の工作ですから、その子が少し触っただけで壊れることもあり、いつもお母さんは一生懸命謝っていました。

 

男の子のお母さんは、その子とは全然タイプが違う、おとなしくて、気兼ねしいのお母さんでした。

男の子が何かするたびに、「ごめんなさい」「すみません」と、こちらが申し訳なくなるくらい小さくなって、一生懸命謝るようなお母さんでした。

そんなに謝らなくても、と周りはみんな思っていたのですが、あるとき、いつものように一生懸命謝った後、「もし、どうしようもなくなったら、この子と二人でアメリカに行って暮らそうと思っています。」と言われました。

「そんな風に思わなくても」と言ったのか、どう言ったのか。

そのとき自分が、なんと答えたか覚えていないのですが、ただびっくりしたことだけを強烈に覚えています。

 

 

でも、それ以来、私の中で、なにか困ったこと、つらいことがあると、「アメリカに行けばいい」とふわんと思うようになりました。

一度もアメリカに行ったことはないけれど、英語も話せないけれど、アメリカは、わたしにとってそんな国になりました。

 

 

東京で暮らしていた頃の話で、あれからそのお母さんにも男の子にも会っていないので、その男の子が、今、どんな青年になったのか知りません。

まさかほんとうにアメリカには行ってないと思いますが、あの親子さんから、なにか小さな希望の種のようなものをもらったような、そんな気持ちがすることもあります。

                  (写真 しゅうじくん)(きなこ)