グレートトラバース

朝の支度をしながら見ている「おしん」、「なつぞら」。
朝ごはん、お弁当、洗濯、夕御飯の下ごしらえなどなど、ながらで見ているのでテレビはつけっぱなし。
そのまま画面は、『グレートトラバース』『世界街歩き』と流れています。
そんなことで見はじめ、今は朝の三つ目の楽しみになった『グレートトラバース』
若い登山家の田中陽希くんが、日本の百名山を一筆書のように徒歩で制覇する旅に密着したものです。
再放送なので、田中陽希くんの数年かかりの旅を毎日拝見できるのも贅沢です。

昨日は心打たれるドラマがありました。
島根の三瓶山に登るために泊まっていた民宿を、夜中、震度5の大地震が襲い、田中くんは被災者として避難することになってしまいました。
三瓶山登頂から戻った田中くんが『ただいま』と扉を開けたのが印象的で、以前からの深い交遊関係を視聴者も感じていた民宿は、一夜で、足の踏み場もない状態になっていました。

その場に残りボランティアとして復旧を手伝うか、旅を続けるか。
田中くんもNHKのスタッフも迷われたことでしょう。
土壁が剥がれた部屋でもくもくと自分の荷物をまとめながら、『どうすればいいんでしょうね』とつぶやく田中くんの硬い表情から、大きな迷いと胸の痛みが伝わり、私たちも心揺さぶられました。

結局、残っても気を遣わせると判断した一行は出発を決めます。
複雑な気持ちを胸に抱えた田中くんに民宿のおばさんは、『これから先二年分のよ』とお守りと、それからハンカチに包んだお弁当を手渡してくれました。
こんな惨状の中、いったいどうやってお弁当を用意したのでしょう。
あまり感情をあらわにしない田中くんの小さな目から次々涙が溢れて、日に焼けた顔を背けても、ぬぐっても涙が止まりませんでした。

島根だなあと思いました。
そういう土地です、島根は。

瀬戸内の過疎の島に住む母も同じことをするだろうと思いました。
日本はそういう国だったのでしょう。

               (絵、安本洋子さん)(きなこ)