声と顔

時々電話でおしゃべりする、とてもかわいい声の女性がいます。

「素敵なお声ですね。」

と言うと、

「そうなの、いい声でしょ。

最近は、病気のせいでちょっと声が出にくくなってしまったんだけど、でもわたし、お友達とホテルのラウンジでおしゃべりしてたら、スカウトされたことあるのよ。

結婚式の司会者になりませんかって。」

「そうなんですか? ああ、でも結婚式の司会に、ぴったりのお声かもしれませんね。」

「そうなの!、その人も、そう言われたの。結婚式の司会は、声がいいだけではいけません。

明るくて、しかも華がないといけないんです。

あなたにはそれがありますって。」

お話し好きで、話題の豊富な方だから、どんな状況でも、途切れずに進行もおできになるだろうな、と思いながら、彼女の話をうかがっていました。

「でもね、わたしがその話をお友達にしたら、「あなた、それ、だまされたのよ。ほら、よくあるでしょ、女優になりませんか、ついては準備金○円払ってくださいっていう話。

初老のオバサンに、まさか女優もないから、司会者って言って、あなたからお金を巻き上げようとしたんじゃないの?」って言うの」

 

「まぁ! そんなことがありますかねぇ」

と笑ったのですが、仲のいいお友達らしい感想はほほえましくて、ときどきその話を思い出しては、フッと笑顔にさせてもらっています。

 

考えてみれば、「わたしは声がいいの」と言われる人、意外といるような気がしますが、「わたしは顔がいいの」と言う人には、まだお目にかかったことがありません。

でも、もし言われても、「声がいいの」は、言葉通りに受け止められても、「顔がいいの」は、ぎょっとするかもしれません。

声も顔も、体の一部なのに、おもしろいなあ、と思いながら、鈴が鳴るような彼女のかわいいお声を、また思い出して笑顔になっています。

                        (絵、高島宏子さん)(きなこ)

♪ 写真をクリックしたら、蜂ヶ峯~思いでは今もきらら~をお聴きいただけます。

 

https://www.youtube.com/watch?v=VlAGpT8XjHs