小さい世界

祖母は農家の主婦でした。

田んぼと畑とみかんの世話をしながら4人の子供を育てて、数年前に亡くなりました。

出かけるのが大好きな人で、しょっちゅう婦人部のバス旅行に行っていました。

祖母の旅好きは地域の人たちもよく知っていたので、旅行に欠員が出ると、「どうかね?」と声をかけてくれていました。

 

美術の教員だった祖父は、なにごとにつけておおらかな人で、絵を描くことと本を読むことが好き、そしてお豆腐とあんぱんが好物。着るものにもこだわらず、冷蔵庫にお豆腐とそれから日本酒があればいいという人だったので、祖母が出かけることも嫌がらず、そんなわけで、祖母は、折りあるごとに出かけていました。

 

大島の田舎のことですから、地域のこともあれば、畑のこともある。

祖父はおおらかでしたが、切れた電球ひとつかえることもない人でしたから、祖母は愛車ミラで駆け回りながら、うちのことも外のことも一人でこなしていました。

その上で、あちらこちら旅する祖母は、わたしたち孫にとっては、ヒーローのような「おばあちゃん」で、ずっと「祖母は死なないんじゃないか」と思っていました。

 

でも、不思議なことに、そして当たり前のことなのですが、やがて祖母も次第に老いていきました。

運転免許を返上し、地域のお役も交代し、少しづつ祖母の世界は小さくなっていきました。

 

次第に狭くなっていった祖母の日常に最後にのこった喜びは、畑でした。

祖母の子供たちが祖母の畑を耕し、祖母の希望を聞いて種をまき、その畑に、祖母は毎日出て、草取りをしていました。

「畑に出ちょったら、気が晴れるよ」

と、祖母は言っていました。

収穫の時期が来ると、祖母は子供たちに

「好きなだけ持って帰りんさいよ。ええのを採りんさいよ。遠慮しんさんなよ。」

と、うれしそうに言っていました。

摘み取ったみかんや野菜をもらって帰る車の中で、母は

「おばあちゃんは、自分が作ったように思っちょるんじゃからねぇ」

と笑っていました。

 

両親は我が家の狭い庭にも、さまざまな工夫をこらして、できるだけたくさんの野菜や花を植えてくれています。

時々来ては、こやしを入れたり剪定したりと、手入れもしてくれます。

その畑で、私は今朝も、季節はずれのトマトとピーマンを収穫しました。

ああ、おばあちゃんも、こんな気持ちを感じていたのだなあ、と思いました。

                             (絵、安本洋子さん)(きなこ)

 

 

 

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コメント: 7
  • #1

    しゅうじ (日曜日, 27 1月 2019 14:43)

    きなこさん、数週間のご無沙汰であります。いかがお過ごしでしたでしょうか。あ、元気でしたか、それは何よりでありました 笑。BTW、By the way、ところで、お祖母様やお母様はもしかして大畠から大島まで船にのって嫁いでいかれたのでしょうか?ふと思いついた質問で申し訳ありません 笑。

  • #2

    元気 (火曜日, 29 1月 2019 21:19)

    しゅうじさま

    放置状態が長く続き、すみませんです。
    きなこから後程、コメントがあると思いますが、私のほうから第一報を。
    義祖母、義母ともに大島生まれの大島育ちです。
    義祖母は、とっても肝の座った方で、マムシを捕っては、焼酎漬けにして、義祖父に飲むようにと、言っていました。これに対し、義祖父は「うちのお嬢が言うことには逆らえん」と苦笑いしながら飲んでいたように記憶しています。微笑ましく、仲良い夫婦でした。

    元気

  • #3

    しゅうじ (水曜日, 30 1月 2019 05:48)

    元気さま

    いえいえ、最近は生活の優先順位が変わられたんだなと理解しとります。また、以前、癇癪を起こしてしまい、失礼いたしました。今回は、変化球で元気さまからのリコメントもとっても楽しく読みました。

    とてもにぎやかそうなきなこさんのご実家、元気さまも訪れるのが楽しみでしたでしょうね。  大島は長寿の島と聞いたことがありますが、山坂海あれば当然生活するだけで体力使いますし、島の人同士のつながりを大事にして、知恵を出し合って、すこーしづつ生活を改善しながら、そんなコミュニティがあったのかなと勝手に妄想?します。  最近、原点を大事にする、しなきゃってことをよく考えます。ではでは。

  • #4

    きなこ (水曜日, 30 1月 2019 20:23)

    しゅうじさん、こんにちは♪
    すっかりお返事が遅くなってすみません。
    返事が遅くなっている理由は、「生活の変化」ではなく、「コメントが入ってくる場所の変化」なのです。
    わたしが気付かない場所に、コメントが入ったという連絡が届くようになったため、こんなに時差が生じるようになりました。
    ほんとうにすみません。誰かにお願いして、近くなんとかします。
    でも、しゅうじさんからコメントをいただくと、とてもうれしいんですよ。
    だって、このブログの、一番最初からのコメンテーターですから。
    ああ、ずっと読んでくださっているのだなあ、と思って、うれしくなります。
    船に乗って嫁いだ、という話は、元気さんが書いたとおりで、母も祖母も島の生まれなので、船に乗って嫁いできたわけではないのですが、祖父が単身赴任して勤めていた光という町の中学校にあがることになった叔父は、大島から手漕ぎの船に乗って、光まで行った、とききました。
    本土の人と結婚したおばたちは、船に乗って、みんなで紙テープを投げて、「世界は二人のために」をBGMに、新婚旅行にでかけていきました。
    大島は、最近はIターンの若い人たちが、おしゃれなお店などをオープンして、おしゃれな雰囲気を求めて来られる方もいるようですが、わたしにとっては、海があって、家族がいて、帰るところ、今でもそんな島です。
    それにしても、しゅうじさんのコメントは、いつもわたしに、いろいろなことを思い出させてくれたり、思わせてくれたりしますね。
    しゅうじさんのコメントには、推進力というか、広がりを生む力があるなあ、といつも感じています。
    受け止める力なんでしょうかね?


  • #5

    しゅうじ (水曜日, 30 1月 2019 21:34)

    キナコさん、元気さま、こんばんわ。
    メールの仕分けがって話ありましたね。もしかすると判るかもしれません。最近、広島〜岩国をちょくちょく往復してるので今度寄ってみますね。

  • #6

    きなこ (木曜日, 31 1月 2019 11:05)

    しゅうじさん、またまた遅くなり、すみません。
    ありがとうございますね!
    こんなことまでお手間とらせて、すみませんが、ありがたいです。
    留守をしていたら残念なので、当日朝でもいつでもいいので、
    ご一報いただけたらと思います。
    よろしくお願いしますね♪

  • #7

    元気 (土曜日, 02 2月 2019 06:31)

    しゅうじさま

    昨日病院に行きインフルエンザをり患していることが判明しました。
    日曜日までは外出禁止とドクターから言われていますので、2月3日までは避けたほうが無難かもです。