半紙の手紙

Aさんから、お手紙が届きました。
もうじき80になられる患者さんで、手仕事がお好きで、端切れや折り紙やビーズで、お家でも通われてデーサービスでも、いつも手仕事をされているそうです。

気前がよくて、作ったものはすぐに誰かに上げてしまうから、「自分の手元にはほとんど何も残っていないの」とほっほほっほと笑って話されます。

 

時々私にも、猫やすずめなどの、かわいい小物などを送ってくださいます。

とてもかわいいので、それに自分で安全ピンをつけて、ブローチにして胸に着けて歩くと、なんだか自分が猫や鳥の飼い主にでもなったようなうれしい気持ちになります。

 

そんなAさんからのお手紙だったので、買い物に出かけようとしていた玄関から回れ右して、ハサミで手紙を開けました。

すると、封筒の中から、ぱらぱらと、折り紙のカエルとトンボがこぼれて、それから、半紙が一枚現れました。


『デイサービスで、今年の目標は年賀状を筆ペンで書いて出すこと、と言いました。
約束は約束ですから、毎日少しずつでも練習して、病気のせいにせず、少しでも前のように書けるように頑張ろうと思います』

それで、今日は筆ペンで手紙を書いています、読めなかったら飛ばして読んでください、と書いてあり、最近作られた小物を主治医の先生に差し上げたら、とても喜んで受け取ってくださりうれしかった、というようなことが、半紙いっぱいに書いてありました。

く白い半紙の、やわらかな風に少し流されながら降る雨のように、少し傾いて並んでいる文字の列がとてもきれいで、しばらく見とれていました。
鼻を近づけたら、まだかすかに墨の匂いがしました。 

                             (写真、yama-p)(きなこ)

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コメント: 2
  • #1

    スミピー (水曜日, 05 9月 2018 02:30)

    げんきなこさん、ブログ更新ありがとうございます。
    きっとそのAさんがお手紙に書かれた文字は優しいお気持ちのこもった、きなこさんのお言葉をお借りするならばやわらかな風に流される雨のような愛しさと懸命さのあらわれた素敵なものだったのでしょうね。
    それに、これはご病気のお体で一生懸命綺麗に書かれようとされたAさんに失礼でしたら大変申し訳ありませんが、筆ペンで書かれた文字は少し味があるほうが素敵に見えるものだったりもしますしね。
    墨の匂いも雨の匂いもどこか落ち着きと哀愁、そして風情を感じたりしますし、きなこさんの表現がそこにも繋がるような気がしました。
    素敵なお話ありがとうございました。

  • #2

    きなこ (水曜日, 05 9月 2018 12:46)

    スミピーさん
    こんにちは♪
    わたしこそ、さっそくのコメントを、ありがとうございます!
    ずいぶん長いことご無沙汰していたので、しばらくはどなたもご覧くださらないだろうなあ、と思いながら書いていたので、コメントいただき、よけいにうれしかったです。
    スミピーさんのコメントは、いつも感じますが、やさしい詩を読んでいるようですね。
    わたしが書いたあらすじが、心を吹き込まれて、美しい詩に昇華したような気持ちを感じながら、読ませていただいています。
    ありがとうございます♪