先生

『始業のチャイムが鳴っても体が動かず、教室に行けないことが多くなってしまって。もちろんサブの先生はいるんですが、生徒たちがかわいそうだから辞めました』

定年よりずいぶん早く退職なさったのですが、Bさんは中学校の英語の先生でした。
英語が話せないことは私のコンプレックスの一つなので、
『どうしたら英語が話せるようになるんでしょうかね?やっぱり、英語に向いている英語脳って、あるんでしょうかね?』
と尋ねたら
『そんなものありませんよ。ひたすら努力です。狂ったんじゃないかと思うくらい、書いて書いて、読んで読んで、そうしたら誰でも英語はできますよ。』
そんな風に指導して、30点しか取れなかった生徒が、90点以上取れるようになったこともありましたよ、とBさんからうかがい、自分の不勉強を恥じました。
生徒さんたちとのエピソードを楽しそうに話されるBさんのお話をうかがいながら、きっとほがらかで一生懸命ないい先生でいらしたのだろうなあといつも感じています。

そのBさんと、先日群馬のパーキンソン病友の会の全国大会で出会い、何人かで一緒にレストランで食事をしました。
一時間ほどもお喋りをしながらご飯を食べていたでしょうか。
Bさんが
『ちょっとオフになってきたので運動します』
と言われ、歩きにくそうに、隅の少し広くなった場所まで移動、体を動かし始められました。
そうだね、じっとしていると、体が固まるよね』
と言いながら、みんなでBさんの体操を見ていたのですが、その柔軟なこと。
『柔らかいですねぇ!』
私は体が固いので、羨ましいなあと思いながらそうお声をかけると
『そうでもないですが、こうしていたら、また動けるようになるんですよ。』
と言われ、床に手をつき、カエルのように四つん這いになられたかと思うと、フワリと足を浮かせて、両手だけで体を支えました。
『え!凄いっ。』
どこから手や足が出ているのかわからないように柔らかいBさんの体の有り様に、目を見張りました。

そう言えば、前に一緒にカラオケに行ったときも、『ちょっと体が固まってきたから』と床に伏せると、軽々と腕立て伏せをはじめられ、驚いたことがありました。

きっとBさんは、毎日『狂ったんじゃないかと思うほどの努力』をされているのでしょう。
中国雑技団もかくやの柔軟さと、腕立て伏せが軽々百回できるほどの筋力をもってしても、足の裏に強力な接着剤が付いたように一歩が出ないパーキンソン病。
時々近所で動けなくなって、助けを求めていますよ、とさらりと言われるBさんが、ほがらかに過ごしていらっしゃること。
そんなBさんの心の強さ柔らかさを思うたびに様々なことを教えられ、やはりBさんは、生来、先生なのだなあと感じています。

                            (写真yama-p)(きなこ)
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