ボクチャン

叔母が逝きました。
みかん農家の四人兄弟の長男の嫁で、ミス大島で、働き者だった叔母は、祖父の自慢の嫁でした。
叔母には姉弟二人の子供がいましたが、とくに弟はお母さん子と親戚間でも有名で、何か心細いことがあって叔母を探しはじめると、『ボクチャンだからねぇ』とみんなで笑って見ていました。

祖父のみかん山を叔母と母が手伝っていたので、私は学校に上がるまでは、みかんの色づく季節になると祖父母の家に行き、体が弱かった祖母と『ボクチャン』と三人で留守番をしていました。

3つ年上のボクチャンは、スラリと背の高い男の子でしたがおとなしい子で、私もボクチャンと一緒にいると全然喋らず、『あんたたちは、まあ、ようおとなしゅう待っちょるねぇ』と大人たちを感心させるほどお利口に、ふたりでただみかん山の上り口に並んで座って、母たちの姿が見えるのを待っていました。

あれから何十年も過ぎて、ボクチャンも白髪が目立つほどオジサンになりました。
病気に縁のなかった叔母は思いがけぬ病を得て、3ヶ月で逝ってしまいました。
葬儀の日、わたしたちが知らなかった叔母との最後の日々のことやお世話になった方々へのお礼の言葉もしっかりと話したボクチャンは、でも最後のお別れのとき、棺に花を捧げながら、叔母の額に手を置いて、肩を震わせていました。
みかん山から降りてくる叔母と母を、一緒に並んで待っていたボクチャンを、私は思い出していました。

           (絵、安本洋子さん)(きなこ)

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