自転車

うたた寝をして2時過ぎに目が覚めて、あらためて布団に入ったものの眠られなくなり、目を閉じて思い出すのは、島に住む母のたわいない一言です。

 

母はものを大事にする人で、私が高校生の頃に乗っていた自転車を手入れしながら、いまだに乗っています。
いつもタイヤの交換をお願いしていた近所の自転車屋さんが閉店したので、自動車屋さんに行き、『溝が減ったタイヤの交換をしてもらえませんか』と頼んだところ、なんとか引き受けてもらえたのだ、とうれしそうに話してくれました。
『まあ!、自動車屋さんがよう引き受けてくれたねぇ』
と言えば
『これは娘が高校生の頃に乗っていた自転車なんです。どうしても駄目なら仕方ないんですが、わたしはこれしかよう乗らんのんで、なんとかタイヤを交換してもらえませんか、と頼んだんよ。』
『まぁ、まぁ!でも、良かったね、直してもらえて。』
『うん、これで一生大丈夫。』
『そんな、一生なんて。』
タイヤの寿命と自分の寿命を一緒のスパンで言った、母の何気ない言葉にちょっとショックを受けながら、でも
『タイヤはすり減ったら危ないから、毎年替えんさいよ。いい「自動車屋さんの自転車屋さん」も見つかったことじゃし』
と冗談めかしてたわいなく話していたのですが、眠られず目を閉じていたら『これで一生大丈夫』と言った母の言葉が川の淀みに引っ掛かった葉っぱのように心にかかり、思われてなりません。

                                           (写真 スミピーさん)(きなこ)

 

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