思い出

昔は普通でも今はしない、ということがありますよね。
躾にしても、私が子供の頃は、押入れや蔵に閉じ込められた、とか、家の外に出された、というような話は、友だちなどからも意外と聞いていたように思います。
私自身は、どこかに閉じこめられた記憶はないのですが、家を出されたことは一度だけあります。

 

ずいぶん悪いことをしたのでしょう。

「そんなことなら、もう出ていきなさい」

と、母に外に出されました。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

と、泣いてガラス戸を叩いていたら、中から、

「お姉ちゃんを入れてあげて!僕も出る!」

と言う弟の声が。

「それなら、あなたも一緒に出なさい」

という母の声がして、開いた引き戸から、弟が押し出されてきました。

たとえ外に出されても、一人と二人ではまったく心細さが違います。

ああ、なんてやさしい弟だ!、と感激しました。

ところが。

母に押し出されたとたん、弟は、

「ごめんなさい、ごめんなさい、やっぱり出ない。僕を入れて!」

と、引き戸が壊れんばかりに叩いて叫ぶではありませんか。

この裏切り者ー!

でも、母は

「だめ、自分が言ったんだから、お姉ちゃんと一緒に出てなさい」

 

 その後のことは覚えていません。

でも、この光景を、何年に一度かくらい思い出し、今は口の悪いオジサンになった弟だけど、根は優しいのよねぇ、と思ったりします。

                  (絵、安本洋子さん)(きなこ)

 

♪絵をクリックしたら、「ふたたびの少年」をお聴きいただけます。

https://www.youtube.com/watch?v=hEDIN2GTibw&feature=youtu.be