一生懸命

「一生懸命、という言葉が好きなんよ。」

と、彼女は言いました。

彼女は、パーキンソン病の患者さんで、元体育の先生。

昨年、ライブで呼んでもらった関西で出会ったのですが、彼女のお里が山口県で、帰省の帰りに広島に途中下車してくれました。

 

「体育って教科は、もともとのスタートラインが違うよね。

運動神経のいい子もいるし、悪い子もいる。

だから、到達点を同じにして点付けしたんじゃ、不公平だと思うんよ。

どれだけ一生懸命したか、自分のスタートラインからどれだけ前に進めたか、だと思うんよね。」

 

 

驚きました。

体育の先生から、そんな言葉を聞くなんて。

もっと上へ、少しでも速く。

オリンピックでも、世界大会でも、みんな、「きれいな色のメダルがいい」と言い、わたしたちも、それをドキドキしながら期待しています。

 

 

「私は中学まではバスケをしていて、得点王になるくらい、バスケはけっこうセンスがあったんよ。

でも、ソフトボール推薦で高校に入ったら、ソフトのセンスはなくてね。

家を離れて、寮生活だったんだけど、休みの日は12時間練習する日もあるくらい毎日ソフト漬けだった。でも、芽は出なくてね。」

「芽が出ないって、レギュラーじゃなかったことですか?」

「そう、ずっと控え。しんどくてね。

先生に「やめたい」って言ったこともあったんだけど、でも、「悩む時間あれば練習しろ」って言われて、結局控えのまま、3年間続けたよ。

でも、その期間がよかったって、今は思っているんよ」

 

 

ソフト部推薦で高校に入学して、ずっと控えのまま。

高校生の心は、どんなにか思い乱れつらかったことでしょう。

でも、そのときの体験が、「みんな、スタートラインが違う。そこから、どれだけ一生懸命できるか」の思いを育ててくれたのでしょう。

そのおかげで、わたしみたいな万年ビリの生徒は、どれほど心救われたことでしょう。

 

 

「今も、一生懸命って言葉がすきなんよ。あとで後悔したくないから。

わたしね、パーキンソン病になって、つらいと思ったこと、ないんよ。

パーキンソン病にならなかったら、こんなにいろんな人に出会うこともなかっただろうな、と思うし。」

 

 

また、素敵な人に出会ったなあ、と思ったひとときでした。

                            (写真、スミピーさん)(きなこ)

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