見送る

通勤ラッシュにはまだ早い時間、駅前を通ると、フェンス沿いに立って、下を走る線路を見下ろしている女性がいました。

人影はまだまばら。

寒いばかりの駅前に、防寒の上着を羽織った女性は、川に立つシラサギのように、動かず立っていました。

ー きっと、受験に向かう子供さんを見送っているんだ。

山を削って造成した団地のふもとを線路が走っているので、フェンス越しに覗くと、ちょうど駅のホームが見下ろせます。

 

わたしも何度か同じ場所に立って、今の彼女と同じように、誰かを見送りました。

受験に向かう子供。遊びに来て帰っていく母。

こんな場所からわたしが見送っているとわからず、死角になる場所で電車を待って、フェンスからは姿が見えないこともあります。

でも、見えても見えなくても、電車が見えなくなってしまうまで、ずっと見送っていました。

 

きっと彼女も今、同じ気持ちでそこに立っているのだろうな。

がんばれ、がんばれ。

知り合いではない、通りすがりに後ろ姿を見ただけの人ですが、彼女にだか、勝手に想像した子供さんにだかわからないけれど、そう思いながら駅を離れました。

                                                              (写真、yama-p)(きなこ)